すべては、これでよかった。


一週間前の約束は忘れても、何十年も前のことを鮮明に思い出すことがあります。
これは、間違いなく、加齢の特徴?

・・・複雑でもありますが、否定はできません。

小学校の低学年だった頃の話です。
本当に昔の話。
当時、神戸に住んでいました。
父の趣味もあって洋画を見る機会が多かったのですけど、
なかでも特に記憶に焼きついてしまった映画の話です。

題名は「革命児サパタ」白黒映画。

メキシコを舞台にしたアメリカ映画でした。
監督、エリア・カザン。 
主役、マーロン・ブランド。

強烈に印象に残っています。
途中はぼやけているのですが、一部分と最後だけは、しっかりと覚えています。
とにかく主人公が、格好よかったのですよ。


当時のメキシコ。
政府の不公平に苛立つ若者達。
その若者達の一人エミリアーノ・サパタ。
やがて若者達は、メキシコ革命へと突き進むことに・・・。
そして、色々大アクションがあるのですが、
時のディアス大統領を失脚させた後、サパタ自身が新しい大統領にまつりあげられてしまいます。
その後も色々ありまして、仲間の裏切りも暴き出し
次々に処刑を断行していくのです。

若さゆえの猪突猛進。

そのうちに精神のバランスを崩し、自分が壊れていくことになります。
やがて表舞台から身を隠し、妻と一緒に山に隠棲します。

・・・と、ここまでは良かったのですが、
ある日、仲間の裏切りでおびき出されてしまいます。
ここで、あのカッコイイ、マーロン・ブランドが、周りから一斉射撃を受けます。
ラストシーンは壮絶です。
芋虫のようになり、身体は蜂の巣になってしまいました。
背中は、穴だらけです。

その日の夕食時、家族の前で必死に映画の話をしました。
子供の頃から感情移入しやすいこの性格。
「最期のあの時、穴だらけの背中だったけど、ビクッて動いたよね!」
って言ったら、父は私の目を見て大きくうなずいてくれました。
私が、興奮していたので、テンションをあわせてくれたのでしょう。
大袈裟と思える同意をしてくれました。

・・・でも、何で今頃思い出すのだろう。

あのカッコイイ、サパタのような男になりたいと、真面目に思ったことがありましたけど・・・。
でも、現実は、全然ちがっている。
似ても似つかないけど・・・。
いいのです。
今は、修行中の額縁職人だ。

サパタと父を思い出した夏の夕食時のビール。「うまい!」

すべては、これでよかった、よかった。 額縁の㈱アート・コアマエダ