画商の魂

銀座地域には500軒ほどの画廊ギャラリーが密集しているといわれています。数寄屋橋のソニービルから新橋に向かって約50メートルほど移動すると左側に画廊があります。入り口に、堂々とした大きな石像がありますからすぐにわかります。1928年に銀座で初めて開設された老舗の日動画廊です。

画商の「眼」力 - 真贋をいかにして見抜くのか

さて、十年ほど前に出版された本の紹介をさせていただきます。著者は、この「日動画廊」社長の長谷川徳七氏。表題は画商の「眼」力 – 真贋をいかにして見抜くのか

前半の一部をご紹介します。

著者の父上、長谷川仁氏「創業者」について語られています。風呂敷画商からスタートし現在の画商業会の基礎を築かれた立志伝中の人物。当時の銀座には、画廊は日動画廊一軒のみだったそうです。そして、その父と一緒に子供の頃から画家のアトリエに通い、それを日課として過ごしてきた著者の思い出。また、現在の副社長でもある奥様との出会いのシーンなどが織り込まれています。画家 鴨井玲さんや、藤田嗣治さんとの濃厚な交流もリアルに綴られています。海外で、億単位の高額作品の買い付けする時の心の揺れなども面白く語られています。後半は、少し重い本題が待っています。

作品の真贋の鑑定についての著者の思想と想いです。

現代とは、あまりにも何が本物で何が真実なのかわからない時代です。マンションの耐震偽装、食品の産地偽装など、連日ニュースになっている不祥事を見るにつけても、社会全般に当てはまることかもしれませんが、残念ながら日本の洋画界もその傾向を免れません。

しかし、一つ救いがあると思うのは、だからこそ本物を求めている人も確実にいるということです。多くの作家との交流、様々な絵を扱うなかで、いつも感じてきたのは、「何が本当のことか?」です。本書を書きながら本当のこと本物の美とは何かをみなさんと今一度考えてみたいと思います。そして拙著を読み終えられたらぜひ、美術館などへ、絵を見に行っていただきたいと思います。

これまでとは、違う見方で、絵に接することができるはずですから。


そして最後のポイント部分において「世の中には鑑定人を自称する輩も増えましたが、その鑑定人の監査も行う必要がある、と考えています」と厳しい言葉で締められています。

業界の発展を願い、将来を憂う著者の熱い心が伝わってきました。

絵の真贋を見極める人達のまた真贋を問う。世界に誇れる信用力の高い業界に成長することが期待されます。

これぞ「画商の魂」と、是非ともご一読をお勧めします。

六月の緑の空気を深呼吸する 額装の㈱アート・コアマエダ(店主)