明治の男は、

海賊とよばれた男

こんにちは。
お元気ですか。

南側の窓はもう春の体感です。
下にひろがる風景は見慣れた箱庭。
上空のまぶしさに眼を細めると
白い雲がゆっくりと西へと流れています。
ここは11階、小生の住まい。
思索を言い訳にダラケタ日曜日の午後です。

『海賊とよばれた男』上・下 百田尚樹著
昨日で読了。

生きる力が涌いてくる一冊でした。

先の大戦で敗戦国となった日本は物資も思想も教育も、すべては進駐軍GHQの絶対的支配下に置かれていました。理不尽なことも多く混乱もありました。無条件降伏ですから、仕方ありません。いっぽう闇成金と呼ばれる人達や、進駐軍との関連商売で成功した人たちもいました。

しかしそんな人達とは比較にならないスケールの大きい経営者の物語です。とにかく、やることが、ドデカイのです。そして気骨があるのです。

主人公の国岡鐡造、つまり出光の創業者の「生き様」です。

主人公の経営のは大家族主義。会社にはタイムカードもなく定年もありません。そして、戦地から復員してきた従業員はすべて復職を受け入れるのです。でも、当時の仕事は、まだ少ない。皆を養う為には何でもやらねばならなかったのです。

慣れない農業や漁業にも進出。

時にはラジオの修理までやったそうです。
失敗も多く、苦悩しながらのた打ちまわったであろう国岡鐡造。
「ゼロ」からのスタートではなく「マイナス」からの出発。
何度かの倒産の危機。
当時、彼はすでに60歳。
とにかく必死に挑戦を続けた主人公の活躍に心を奪われました。

下巻では活躍の場がますます広くなります。当時、英国の統治下にあったイランへ石油を買いに行くのです。巨大タンカーですから目立ちます。諸事情により英国海軍に見つかれば、撃沈か拿捕の危険がありました。必死にコースを変えたりしながら危機を乗り越え、油を満タンにして帰国するのです。このとき巨額の利益を生み出したといわれています。

これが出光の運命を変えた、ひとつのターニングポイントとなりました。
この部分の展開も圧巻です。

後も色々のチャレンジを試みますが、メジャーや石油連盟等の横やりに苦労しています。同業者の嫉妬や政治家との軋轢も突き飛ばして、国家国民の為、錦の御旗を掲げ進撃を続けたのです。

進行が早くスピード感にあふれ一気に読んでしまいました。

主人公は、小学校の時、神経症と眼病を病んだそうです。そしてそのことで読書より自分の頭で考えぬく習慣を身につけたといいます。

「こんなこと、不可能です!」と社内重役に反対され、
誰もが無理だと反論する中でも妥協せず断行。
そして必ずやり遂げさせるのです。
これってある意味「独裁者」に違いないですし、
時には失敗もしたに違いありません。

普通ならば失脚するでしょう。
しかし、それなりに周りに感動を与え、厳しい仕事を通じて社員を幸せにしたといいますから、彼の場合は「独裁者」ではなく「人格者」だったということですね。

晩年、出光は日本を代表する大企業となり、巨万の富と名声を手にした主人公。そこに至るまで、生の人間としての「煩悩」もあったと思うのです。

小生はその辺りが知りたかった。

長い人生ですから、きっと影の部分もあったと想像します。
どのように克服したのでしょうか。

できないことではありますが、直接主人公に尋ねてみたかったことのひとつです。

  明治の男の気骨にしびれた額縁屋    額装の㈱アート・コアマエダ